おまえはママなしでは生きていけないのよ。「スピンクス」1979年
あらすじ
「僕」は魔女の館に住んでいた。「僕」は真っ白な部屋に来る日も来る日も立っていた。
毎日毎日「スピンクス」がやって来て「僕」に質問をする。声も出ず体も動かせない「僕」は「スピンクス」に弄ばれる。
そんなある日、知らない男の人がアーチーの世界に現れるが…。
精神世界がエジプト仕様。
山岸作品は父親&娘の近親相姦を描いた作品はやたら多いですが、この作品は珍しく母親・息子の癒着を描いています。
しゃべりたいのにしゃべれない、動きたいのに動けない「僕」=アーチーは、紙でできた食べ物を無理矢理食べさせられたり、紙人形に体中を舐め撫で回されたりして不快な悪夢の中にずっといます。
「毎回同じ質問(「朝は4本足〜」のアレ)をされて毎回同じ答えを返す」というのは現実でもあったやり取りなのかも。「ママのこと好き?」と聞かれたら「好き」と答えないと殴られるみたいな。毒親ってこういうことするよね。
アーチーが恐れる「スピンクス」はどぎつい顔に大柄な裸体、尖った赤い爪を持ったライオンのような女。デビルマンに出てきそう。彼女はアーチーのことをねめ回すようないやらしい目つきで眺めます。
ぐっしょり濡れた毛布に包まれて凍えるアーチー。
恐怖と嘔吐しそうな嫌悪で一杯になりながら僕は彼女に抱かれる。
地獄だ地獄だ!
(それでも彼女の腕は暖かい)
声があるなら叫びたい。涙があるなら泣きだしたい。
(それでも彼女の胸は暖かい)
後半はエジプト壁画の中(病院)。
ある男の人が出てきてアーチーに優しく話しかけてくれるのですが、アーチーは恐ろしいスピンクスの言いつけで、その人を無視たり嫌そうな顔をしなければいけません。
「おまえが生きていけるのはここだけ。
おまえが生きていけるのは、この私とだけよ」
冒頭からずっとアーチーの心地悪い目線で進んでいましたが、最後はアーチーが優しい男の人・ブロンクス医師に気持ちを伝えることに成功するハッピーエンドです。
「あのスピンクスはだれ?」
「あれはきみの愛情と憎悪、不安・混乱」
「なに? なんて言ったの」
「ううん、きみの不安がああいった形で見えたんだよ」
アーチーとブロンクス医師の妙にイチャついた感じは『籠の中の鳥』の人見さんと融くんを思い出します。「行かないで!」と幽体離脱しかけるところも似ている。山岸先生の趣味かな。
今はもうスピンクスが全然怖くない…という、光溢れる爽やかな終わり方が印象的です。同じ近親相姦話でも父娘系はあんなにも気味の悪いかんじで終わるのにね。
収録コミックス
- スピンクス(花とゆめコミックス)(白泉社)
- 山岸凉子作品集〈7〉傑作集1 スピンクス(白泉社)
- 山岸凉子全集〈27〉クリスマス(あすかコミックス・スペシャル)(角川書店)
- 山岸凉子恐怖選〈3〉千引きの石(ハロウィン少女コミック館)(朝日ソノラマ)
- 自選作品集 ハトシェプスト(文春文庫ビジュアル版)(文藝春秋)
- 山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色(潮出版社)