山岸凉子漫画感想ブログ

山岸凉子先生の漫画作品の感想を書いていきます。普通にネタバレしてますのでご注意ください。

白馬の王子様は息子。「鬼子母神」1993年

あらすじ

ごく平凡な家庭に生まれた瑞季。しかし瑞季は生まれながらにして「悪魔」で、双子のは生まれながらにして「王子様」だった。
さらに、は「菩薩様」で、は「表札」だった。成績優秀な兄は母に過大な期待を寄せられ、出来の悪い瑞季はぞんざいに扱われ、その分期待もされなかった。


愛という名で飲み込まれた子供は、自分の真の姿にいつ気がつくのだろうか。

まずね、瑞季ちゃんのキャラが好き。君が母と兄に飲まれず適度にサボれるタイプの子で本当に良かった。家の外に居場所があるのって大事だよね!

瑞季の目だけに見えるメルヒェンな家族像を通して描かれる母と兄(名前出てこない)、母と父、そして母と瑞季。生まれながらの「悪魔」である瑞季が「菩薩様」に叱られる「王子様」の汗を袋に集めたり、「表札」がゴルフに行ったりと、一見シュールなギャグのような絵面ですが、描かれるのはそれは歪んだ家庭。

「気を抜いてはだめよ。良い大学へ行けないとパパのように苦労しますよ」
「ちょっと調子が悪かっただけだよ」
「わかってるわ。これがお兄ちゃんの本来の力じゃないことぐらい」

「お兄ちゃんは几帳面なのに、あんたは女の子のくせにだらしなくてママ恥ずかしいわ」

母に溺愛される兄はピッカピカの「王子様」。その代わり母の期待に応えようと幼い頃から無理をしています。母と兄にだらしないドジと言われる瑞季は生まれながらの「悪魔」。兄のように褒めてほしい。でも兄のように過剰にがんばりたくはない。ドラクエやりてえ。

瑞季ちゃんは家ではダメ人間のように言われてても、学校では面白い奴として人気者だし、兄と比べたら学力は低いけど、勉強はそこそこ要領よくて友達も多い。この子のおかげでこの作品は鬱々とした雰囲気にならずに済んでます。
途中から母の叱責にも開き直りだして、ちょっぴり悪友と付き合ったり。お兄ちゃんにもこの柔軟性があれば…。
母と兄に女としての自信をさんざん折られて可哀想でしたが、モヤシくん(名前出てこない)と出会ってその呪縛からも解放されたし、瑞季はほんとうまく家から出られてよかったね。

母に溺愛され、甘やかされ、尽くされた「王子様」は、途中までは順風満帆の優等生でしたが、偏差値の高すぎる高校に入った途端沈没し、家庭内暴力と酒に走っています。
一方、家を出て舞台女優として活躍する瑞季は、大人になった今ようやく気づくのでした。

夫に失望した母には、それにかわるものが必要だった。
それが兄だったのだ。
失望が大きければ大きい分だけ、兄に対する期待は膨らんだに違いない。
それゆえ兄は生まれながらにして王子だったのだ。
弱さを認められず、負けることを許されない立派な王子(おとこ)!

なんかさ、どっちにしろ他人に王子様を期待するから裏切られるんじゃないの? 自分で王子様を目指せばいいのに。少女革命ウテナみたいに。

悪魔も王子様も母の目に映った姿だった。瑞季は最初から「悪魔」として見られていたおかげで、母の裏の顔に気づくことができた。
「王子様」として母の期待に応え続けてぶっ壊れた兄。酒浸りの王子様にまだ尽くす母…。やっぱりお兄ちゃんが一番かわいそう。家庭内暴力といえば金属バットという時代あったよね。
そして、母の「王子様」ではなくなった父(表札)のこともやっと理解できた瑞季

妻に自分の母親がわりをおしかぶせ
永遠に子供のままで父親になれない姿がここにある

ここに出てくる「妻とセックスなんて近親相姦のようでゾッとする」と言った「某作家」が誰だかわかんない。
瑞季はあんな歪んだ家庭の中にあっても唯一、いろいろな真実に気づいて自立した大人になれた。しかし共依存状態の母と兄は将来どうなるのかな…。

収録コミックス

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