山岸凉子漫画感想ブログ

山岸凉子先生の漫画作品の感想を書いていきます。普通にネタバレしてますのでご注意ください。

不倫ってハードスケジュール。「蜃気楼」1990年

あらすじ

昌彦は結婚して5年目の妻・春枝と一人娘をもつ、ごく普通の会社員。
しかし昌彦には星子という愛人がいた。妻と愛人、どちらにも優しくバランスよく付き合っているつもりの昌彦だったが、その均衡は少しずつ破られていく…。


不倫男の朝は早い。
「不倫」がテーマになることが本当にやたらと多い山岸作品ですが、「不倫する男」の目線で描かれた話は珍しい。
穏やかで優しい妻・春枝と安定した家庭をつくり、わがままで色っぽい星子と男女の関係を楽しむ…タイプの違う二人の女を愛する充実感に満ちた生活を送る昌彦。
家族サービスの合間に愛人サービス、スケジュールを組んで嘘をついて、電話のために家を抜け出して(ケータイのない時代なので)、仕事もして…とハードです。こうまでして不倫したいかい…? どうでもいいけど星子はラブホみたいな家に住んでますね。

このふたつの愛のうち、どちらかが欠けても耐えられない。
以前よりも仕事は順調だし、気力にも張りがある。

本人が幸せならしょうがないな。昌彦は「今の僕には妻も星子も幸せにする自信がある」という『アリエスの乙女たち』の高志さまのような理想を掲げてますが、星子も春枝も昌彦が思うほど甘い女ではなかった。
昌彦の他に恋人をつくっていた星子はいきなり「自分がやられて厭なことは他人も厭なんだという事わかった?」と、昌彦に対して小学校の先生のお説教のようなことを言い出します。言える立場か!? やっぱり結婚してくれないことを恨んでたんでしょうか。慌てる昌彦。

星子には充分贅沢をさせている。仕事も割りのいい仕事を回している。
睡眠時間をさいてまで、できる限りの我が儘も聞いてやったじゃないか。だからこそ!
だからこそ? い、いや違う、愛しているからだよな。

自分のエゴに昌彦は気づかない。
さらに、「穏やかで貞淑で何も知らない妻」だったはずの春枝は探偵を雇って夫を監視していました。てっきり途中までは「一連の放火事件は昌彦を家に帰すための妻の犯行だった!」とかそういうサイコホラー展開になるかと思ってました。だってほら、春枝さん『コスモス』のママと似てるし! 春枝さんが思ったよりまともな人でほっとしました。
不倫がバレた昌彦の謝罪の言葉もやっぱり無意識のエゴで固まっていて腹立ちます。

「すまない。きみを…傷つけるつもりは…」
「傷つける? そういう言い方はやめてください。あなたは自分が傷つくのがいやなのよ。
あなたは自分のエゴが認められない。自分を悪者にしたくないのよね。
そうよ、あなたは極悪非道な人間というわけではないわ。ごく普通の優しい男(ひと)よ。

「だからわたし、わからなくなったの。男の人ってなに? 結婚ってなんなの?」

山岸先生には既婚女性が不倫して夫が苦しんで「女の人ってなに? 結婚ってなんなの?」ってなる漫画も描いてほしい。いつも男ばっかり楽しんでて不公平だ。
昌彦はラストでは憔悴しきった顔になってるのでざまみろってかんじです。

収録コミックス

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