海で死んだあの子の記憶。「海の魚鱗宮」1985年
あらすじ
娘の和美を連れて、久しぶりに郷里へ里帰りした寿子(としこ)。
無意識のうちに自分の郷里を嫌っていたことに気づいた寿子は、その原因である、昔海で溺れて死んだ「奈保子ちゃん」という少女のことを思い出す。
あの夢の中の女の子は……ナ・ヲ・コ…
海で溺れて死んだ奈保子ちゃんだ。
寿子はなぜか娘に女の子らしい格好をさせることを嫌がる主婦。12年ぶり帰った郷里の海は、寿子に恐ろしい過去を思い出させます。
「奈保子ちゃん」は寿子が子供の頃に同じ幼稚園の、とても可愛い女の子でした。
「奈保子ちゃんにピッタリだね、その帽子」
寿子が貸してあげた可愛い帽子は、寿子よりも奈保子ちゃんによく似合い、寿子の慕う近所の高校生・啓一さんも奈保子ちゃんのことを褒めた。
その後寿子は、帽子を海に落としてしまった奈保子ちゃんを責め、八つ当たりで海の中に帽子を取りに行くように言った…。
わたしとても奈保子ちゃんが憎かった。
啓一さんにほめられた事も、帽子が似合う事も
すべてが憎かったのよ。
子供の頃って、大人の何気ない一言で自分の客観的な評価に気づかされてしまうものです。子供といえども女の子は自分の美醜に敏感です。気をつけてください啓一さん。
で、「幼い子供の持つ真っ白な残酷性」みたいなものをテーマにした話かと思ったんですが、その後もうひと展開ありました。
寿子が奈保子ちゃんのことを思い出した時、娘の和美の姿が消える。「帽子を被った女の子と海岸へ行った」と聞いた寿子は海岸へ急ぐが…。
このへんの展開は『パイド・パイパー』と似てますね。ハラハラ。
奈保子ちゃんは実は寿子のせいではなく、何者かによっていたずらされ、首を締められていたのです。奈保子ちゃんは寿子に恨まれるほどの美少女でしたが、その可愛さは「近所の優しいお兄ちゃん」の内に潜むロリコン心を引き出してしまうほどのものだったのです。
最後は寿子が無意識の内に避けていた「可愛い女の子」を克服し、「ママ、和美がピンクのワンピース着てるところ見たくなっちゃった」という一応ハッピーエンド。でも他の被害者の女の子のことを考えるとけっこう暗い気持ちになります…。
この「娘に男の子の格好をさせる」という行動、もし早い段階で克服せず、寿子がずーっと和美に男の子の格好させ続けてたら別の山岸漫画が生まれてしまうところでしたね。