山岸凉子漫画感想ブログ

山岸凉子先生の漫画作品の感想を書いていきます。普通にネタバレしてますのでご注意ください。

蘇我くんのもうれつ受験校改造計画。「メタモルフォシス伝」 1976年

あらすじ

都内の某受験校にある日転校してきた不思議な少年蘇我
毎日勉強勉強でピリピリしている学校で、それぞれに問題を抱える久美新田小山大田原
蘇我はその不思議な力で、彼らを、学校を、少しずつ変えていく。
全国の高校(ハイスクール)の受験生よ! 転身(メタモルフォシス)せよ!!


「歳をとりたいとは思わないけれど、試験や宿題のない歳になりたいなあ」
「答を求められたなら、それに答えるよう万全を期さなくちゃならないのさ」
「入ってから考えます。今はただ勉強するのみです」
「こっちは花嫁の持参金代わりに大学行くんじゃないんだからな」
「ねえあなた、こわくないの。今この2時間にも他の連中はせっせと勉強してんのよ」

不思議な能力を持ったあっかるい謎の少年・蘇我要を狂言回しに、日本の受験のあり方や学校教育制度に対して疑問を呈する、短気連載作品。
厳しい受験・テスト・宿題に心の底では疑問を抱きつつも、目の前の受験を突破するために朝も夜も勉強せざるを得ない登場人物たちの問題を蘇我くんが解決していきます。

久美:自他ともに認める劣等生だけど、人間的感覚は多分一番まとも。本来文系なのに親の期待に反発できず理系を選択。
新田:クールな優等生だけど家庭に問題を抱える。テストのあり方がおかしいのに気づきつつ好成績を収めるバランス派?
小山:本当は音楽が好きなのに、周りの呪文に流されるままにぼんやりT大受験を目標に据える。しっかりしろ。
大田原:典型的な学歴至上主義で嫌われ者のガリ勉眼鏡。しぬな。
紅子:新田と同じく、割り切って自分の目標のために勉強に励む。唯一、最初と最後でそんなに変化なし。
冒頭ではこんな感じのみんなですが、蘇我くんの活躍で徐々に変わっていきます。

私が感情移入するキャラはやっぱり劣等生の久美(クネ)です。
他の山岸作品にもよく出てくる「気弱で自分に自信が持てない、抑圧された少女」で、元々文系なのに親に反抗できず苦手な理系を選択し続け苦しむ。
文学や美術や音楽や美しい風景なんかに感動する豊かな感受性を持っているのに、自分の意見をハッキリと言えず、周りに流され、よりによって自分の長所を全然 生かせない医学部に進学すべく頑張っちゃう(でも劣等生)という、すごい辛そう&もったいない子だったのですが、蘇我くんのおかげで変わります。がんばれ。
勇気を出して数学・物理の講習を受けなかった久美が、学校を散歩して蘇我と会話するシーンが好きです。

こうしてひとまわりしてみると、学校もいいところなのねえ。
あのドングリの幹の影もステキだし、花壇だって。
今までぜんぜん気づかなかった。(中略)なんだか泣けてきちゃう。
あたしってバカみたい。こんなことに気がつく心のゆとりもなかったなんて。
あたしって学校には勉強以外、なあんにもないって思ってた。
今、あたし16歳…。もうすぐ17歳になっちまう。
二度とこない16歳に、勉強だけしか見つめてなかったなんて! あたし泣けちゃう。

「見てごらん。あの暗くて暑い教室でみんなのやってること。
きっと、きみの今の気持ちに気がついていない人もいっぱいいるんだよ。
もしくはわかってても、頭の中だけで……かな。
今のきみのように泣けるほどそのことに気がついてる人は少ないよ、きっと。
ずっと大人になってから、くやしい思いをしながら気がつくんだ。
今気がついたきみはしあわせだね」

「不思議ねえ。あなたって… ずいぶん人の心を理解してくれるのねえ。乙女の感傷って言っただけなのに」
「こういうことを理解することを教室では教えてくれないよね。
あそこでは点数をより多く取る人間が頭がよくて値打ちがあるんだ。
それが間違ってるとは言いきらないけど、ただ、人間、それだけじゃないよね」

「ええ!」

でもこの後、久美がこの素敵な会話を親友の紅子に話したら紅子は「それは逃避よ」とバッサリ。
この紅子って子が何気にくせ者で、この作品の中で唯一あんまり成長(変化)のないキャラです。変わるほど元々問題のあるキャラじゃないといえばそうなんですが、なんかこう、実際の学生の中にいそうな絶妙にリアルなキャラクターなんですよね。
目標のために勉強は頑張るし、成績も良い。受験に意味があるのかはわからない。今はただ、目の前の受験を突破するだけ。
受験への疑問や、ましてやそれを変えるなんて大層なことは未来の人々にお任せします。
今この受験戦争まっただ中に疑問を呈するなんてのは逃避・敗北でしかないわ。と、こういった論調でいつも久美の発言や久美が気づいた感動を悪気なく否定したりします。
久美も、クールかつ理路整然とした紅子の言い分に上手く反論できずに口ごもってしまう。
だがそもそも久美と紅子は真に意思の疎通ができているのか? こいつらなんで親友なんだろう…。
まあとにかく、久美がんばったよね。

私、医学部へ行くのとは違う形で親孝行しますから…。
久美みたいな真面目な子は親のために何かしようと思いすぎない方がいいと思うよ。(私は久美ちゃんの岡村響子化を心配しています)

あとは小山が多少しっかりしたり、大田原の勉強ノイローゼを蘇我が何とかしたり。新田の心の闇を何とかしたり(なげやり)。
蘇我の暗躍のおかげで新田がお兄さんに少し優しくなるとこ好きです。あのお兄さんそんなに悪くないよね。
もうれつ受験校改造計画、最後のシメは学校祭。
最も難関と思われた「教師陣の懐柔」はまさかの麻雀でした。
あ、先ほど「紅子はあまり変化がない」と書きましたが、紅子は麻雀ができるようになりました。

「ぼくはこれからもずーっと、きみたちといっしょだよ。一生」

収録コミックス

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