山岸凉子漫画感想ブログ

山岸凉子先生の漫画作品の感想を書いていきます。普通にネタバレしてますのでご注意ください。

夢見がちもここまで来ればプロの域。「ドリーム」1978年

あらすじ

岡元由子(ゆず)は母の再婚によって、クラスメイトの周防薔子(すおうしょうこ)のいとこになった。
旧家である周防家に遊びに行った由子は絶世の美女・丹穂生(におう)と出会い、周防家の夢のような生活に酔うが…。


登場人物の名前が読めない。
新しくいとこになった薔子の家に泊まりがけで遊びに行ったらすごい金持ちだった! ワインたっぷりの晩餐会、手作りのタルトタタン、優雅な美男美女のいとこたち。素敵! この家は女の子の夢だわ!とうっとりする由子(庶民)。

「なんだか夢みたい。ここの生活が。このお家、ここの人々。
そしてなによりもここに私がいるということが。
あたしがいつも夢みていたことよこれは。
あたしだけじゃない、女の子ならみながもつ夢…」

周防家には丹穂生(におう)という絶世の美女がいます。
薔子(と由子)のいとこである丹穂生は、美しく上品で優しく若々しく、完璧な女性。薔子は丹穂生のような女性になりたいと憧れています。
でもそんな丹穂生を、夫の晴比古はなぜか苦々しい表情で見つめるのでした。
さらにもう一人、丹穂生をよく思わない人が。いとこの一人・耀(かがよ)です。よく思わないというか、「丹穂生さん(苦笑)」ってかんじ。なんでかというと、耀ちゃんは丹穂生の本性を知ってるからです。

クリスマスパーティーの日、イケメンのいとこ・勘解由(かげゆ)とダンスを踊ってもらった由子はすっかり(私の夢、私の王子さま…)と夢心地でしたが、
「もういや! 勘解由ったら由子さんにやたら親切にするんですもの」
「はじめてこの家に来た人だもの、礼儀上だよ」
という薔子と勘解由の会話を聞いてしまい、夢から覚めます。
えーとここの二人って付き合ってるの? 勘解由は丹穂生が好きっぽい描写があるけど…。
薔子ちゃんは丹穂生とか勘解由とか、自分が好きな人に対して独占欲が強いわがままお嬢様です。

「私は勝手に夢を描いてしまっただけだった」と気づいた由子はとっとと帰り支度を始めます。
さっきまであんなにはしゃいでたのに切り替えめっちゃ早いな。
一方その頃、晴比古は丹穂生に離婚をきりだしていました。

きみは夢を見ている。
恋愛したいという夢。結婚して妻となる夢。
庭師がいて料理人がいて、あとは優雅に菓子なぞ焼く妻…という夢。
妻としてホステスとして立派なパーティーをきりもりしてみせるという夢。
それがすべてきみの夢であり、このぼくはその夢の中のほんの1枚のカードでしかない。
あまりにきみが美しくて、優雅で…おうようで…
けれどそれがどこからくるのか。すべて、すべて他人無視だからだ!!
他人を必要としない自分の夢の中にだけ住んでいるからだ。
だからすべてにおうようで優しい。自分以外の出来ごとはどうでもいいのだものねえ」

「なにを、なにをおっしゃっているの!
あなたの言ってることはなにがなんだか」

「わからないだろきみには。理解などきみには無用だもの」

丹穂生の優雅な生活は、リアルな人生ではなく夢ごっこ、壮大なおままごとにすぎなかった。
だからよそ者の庶民である由子の名前を何度聞いても覚えないし、一週間ぶりに帰ってきた夫に「おはようあなた」としか声をかけないし、暑くても汗をかかない。
晴比古さんは最初は美しい丹穂生にベタ惚れだったらしいので、『黒のヘレネー』のメネラーオスみたいに夫婦として一緒に暮らしていくうちに気づいてしまったんでしょうか。気づいていく過程が読みたい。

耀は丹穂生の異母姉妹だと思われていたが、実は異父姉妹だった。つまり、丹穂生の母(これも絶世の美女でみんなの憧れの的)が不倫(?)して産んだ子。丹穂生とそっくりだった澪おばさまは「私は今こそ本当の恋愛をしてるのよ☆」という夢を見て駆け落ちし、飽きたら男と娘を捨てて元鞘に収まるような人だった。
そして丹穂生も「かわいそうな孤児を育ててあげる優しい私☆」という夢を見て孤児となった耀を引き取った。何なのこのドリーミング親子。薔子は理想をぶち壊されて大ショック。

「あたしは姿形は母親には似なかったけど、
あの二人の血があたしに流れているということ、それを思えばこそ、
あの二人に欠けていたものを見失うまいと努力してきたわ。
自分の世界ばかりを夢みる人間ではなく、本当のものが見える自分であるようにと」

耀ちゃんは若いのに現実的で偉いし、すぐに夢から覚めることができた由子ちゃんも偉い! 薔子ちゃんは微妙! 丹穂生さんはいい年して夢を見てるだけ…。丹穂生さんの心理に一番近いのって他の山岸作品でいうと誰だろう? ヘレネー? バンシー?
丹穂生さんは夫に離婚されてショックを受けてるように見えますが、どうせまた「何も悪くないのに夫に捨てられた可哀想な私☆」みたいな夢が始まるんだと思います。
「夫に捨てられた可哀想な丹穂生さんを慰めるうちにいつしか愛し合うようになる年下のイケメンいとこ」も用意されてるようだし。

しかし丹穂生はたまたまブルジョワの旧家に、おまけに美人として生まれたから「庭師がいて料理人がいてお菓子を焼いてパーティーをきりもりする美人」の夢を現実にセッティングすることができたけど、もっとフツーの庶民の家に生まれてたらどうなってたんだろう? 『カイジ』に出てくるダメ人間みたいに「こんなもの(現実)が本当の私のはずがない」とか思いながら暮らすんだろうか。庶民バージョンも読んでみたい。

収録コミックス

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