山岸凉子漫画感想ブログ

山岸凉子先生の漫画作品の感想を書いていきます。普通にネタバレしてますのでご注意ください。

みんながその子を鬼にした。「鬼」1995年

あらすじ

天保8年。奥州枯野村はひどい飢饉に襲われ、親に不要と判断された子供たちは口減らしのために穴の中に捨てられた。
時は流れ、M美大民俗学サークル「不思議圏」は寺に合宿に行くことになった。
その土地の飢饉について調べていた彼らだが、寺では妙なことが起こるようになり…。


しんどい。
社会派ホラー漫画? めちゃくちゃ怖い漫画です。末松くんの境遇が怖いし哀しいし寂しすぎて…。しかも似たようなことが実際にあったかも知れない…。
初めて読んだ時、子供が血の涙を流して穴から覗いてるシーン(怖くて見れないのでうろ覚え)が怖くて!怖すぎて!二度とそのページを見ないようにしてました。何年もずっと見てませんでした。
なのに今回感想を書くために読み返してたら手が滑ってちょうどそのページが開いてしまいぎゃああああ!
なんで夜中に読み返してしまったんだろう…。orz

民俗学だ不思議だなんていいながら旅行したい者の集まり」である「不思議圏」のメンバーは、宿泊代タダにつられて知り合いのお寺に泊まりますが、騙されて修行体験者にされてしまいます。
しかし妊婦である大黒さん(住職の奥さん)の体調悪化により修行は中止に。
そして不思議圏のみんなは村人に「あそこは子供が生まれない場所だ」と聞かされます。
天保の飢饉の時に生きたまま穴に捨てられた子供が鬼になって子供を殺すのだという…。
現代と昔が交互に語られますが、不思議圏のメンバーは草薙、あぐり、部長、舞など「親に見捨てられた」という思いがある子が多く、特に草薙やあぐりなどその思いが強い子ほどその土地の「子供」と波長が合ってしまい、泣き声などが聞こえたりします。

天保8年。奥州枯野村の大人たちは口減らしのため、長男だけを残して「いらない子供」を深い穴に捨てた。
「末松」「留吉」も名前からして「もう子供いらない」系ネームですね…(※「末」や「留」は「これ以上子供ができないように」という意味で付ける)。
やがて子供たちは飢えに勝てず、穴の中で死んだ子の肉を食べ始めた。
やがて人数が減っていき、最後に残ったのは年長の末松と留吉だけだった。
末松は死んだ後に自分の肉を食われるのが怖かった。早く死にたかった。でも死んで地獄へ行くのも怖かった…。
末松は子供なのにずいぶん倫理観がしっかりしてる子で、「人肉なんか食べたら地獄に落ちる」と強く思っていて、それが後々悲劇を産んでしまいます。
留吉は末松ほど倫理観強くなさそう。留吉が最後に生き残ればよかったのにね。

「留、俺ば食ったらおめえは地獄さいぐぞ。
考えでみろ! おめえが俺ば食ったらおめえはひとりぼっちだ!
そっから先はずーっとひとりぼっちだ。
そしてひとりで死んでぐんだ。怖ぐねェのが!」

このすぐ後に留吉は事故死してしまうので(穴から出ようとして登って落ちた)、留吉を脅そうとして言った台詞は全て末松に降りかかってきてしまうのです…。
真っ暗な穴の中で、たった一人ぼっちで、ウジのわいた友達の死体を食べながら、死ぬほど怖くて寂しい思いをしながら、少しずつ飢えて死んでいくのです…。
お、幼い子供の耐えられる環境じゃない。怖すぎる。地獄。一体末松くんが何をしたっていうんだ!
ちなみにそんな地獄が繰り広げられている穴の外では、誰かの母親がとっくにみんな安らかに死んだと思ってのんきにお供えとかしてます。そのお供えを食べさせてあげてー!
生きたまま子供たちを穴に閉じ込めたらどういう地獄が待ってるのか、捨てた大人たちは想像しなかったようです。
なんか、みんなで眠るようにふわっと死んだとでも思ってるのか。それか、舞の言ったように想像するのが怖かったので敢えて止めたのかも知れません。
本当に、殺してあげた方がまだ優しかった。大人たちが手を汚すことも嫌がって臭いものに蓋をするように穴に捨てたりするから、末松は何百年も穴から出られなくなってしまいました。

自分がとっくに死んでるのに気づかず、いつまでも穴の中から出られない末松。
「人の悪を食べた自分は死んだら地獄に落ちる」と強く思っているので、成仏できず…、やがて自分が誰かも忘れ、ただただ両親を探し、肉を求め、子供を祟り殺す「鬼」になってしまう…。
あーもう本当に怖い怖い。つらい。しんどい。

でも大丈夫! 末松くんがかわいそう過ぎてとっても辛い話だけど、不思議圏のお兄さんお姉さんたちが末松(に憑依された草薙)とちゃんと対話して救済してくれるハッピーエンドなんです。
何百年も成仏できなかった「鬼」をお話とお手紙で天国に導ける不思議圏メンバーすごくない!?

「そいつ可哀想なんだ。自分を捨てた親を恨むないと思えば思うほど親を許せなくなるんだ」
「人は生きられる可能性があるかぎり生きる権利があるんだ。
それで結果的に助からなかったとしても、食われた仲間は納得していると思う。
友を生かすために食われたんだ。食われることが自分を活かすことでもあったんだと今はみんなも許しているよ」

部長はただの舞ラブのチャラい奴かと思いきや、いざとなると結構良いことを言う。

生きるとは何か。食うとは。食われるとは。許すとは何か。
部長(寺の跡取り息子)がお経を上げられなくて悔しがるシーンが出てきますが、お経自体は祟りがあった昔に本職のお坊さんがちゃんと上げてるんですよね。それでも成仏できなかった。
やっぱり、末松のような子には心のこもった対話が一番良かったんだろうなぁ。
自分を捨てた両親を恨み、でもそれまでは優しかった大好きな両親を求めずにはいられない末松くんが本当に哀しい。
親子関係に悩み、親に捨てられた感や親を恨む気持ちがあって末松と波長が合うメンバーがちょうどこの土地に来たのも何かの運命か。

終盤、母親にスカートが似合わないだの本当に男の子だったら良かったのにだの言われていたあぐり(名前の意味:「女の子もういらない飽きた」)が母親に「男の子だったら良かったのにって言葉、わたしすごくキズつく」と言えてるのめっちゃ感動。
親にそういった言葉が言えず狂っていった山岸キャラが何千人いることか!(そんなにはいないだろう)
あー読み返すのしんどかった。

収録コミックス

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