山岸凉子漫画感想ブログ

山岸凉子先生の漫画作品の感想を書いていきます。普通にネタバレしてますのでご注意ください。

少女の死体を求める市松人形。「わたしの人形は良い人形」1986年

あらすじ

昭和21年。初子という少女が事故で死んだ。葬儀では副葬品として立派な市松人形が添えられたが、どういうわけかその人形は初子と一緒に焼かれないまま箪笥に仕舞われてしまった。それ以来、人形は女の子の死体を求めるようになる…。


「このお人形あげましょう。初子ちゃんだって一人で逝くのはさびしいもの」

山岸作品の中でも特に一般に認知されている市松人形ホラー作品であり、人形系ホラーマンガの中でも有名な作品。
めっちゃ怖い。私は人形オタク(※)で、怖いと言われがちな市松人形も3体所有し愛でてる人間ですが、それでもこの漫画を読んだ後はしばらく市松人形が怖くなってしまいます。特に人形が棚から飛びかかってくるとこなんか二度と直視できない!
※人形オタクゆえ「この人形、戦時中以前に作られた設定なのにどう見ても戦後の作りしてるぞ?」とかそういうことは考えてしまいますが!

人形の経緯がけっこう複雑なので整理しておきます。

  • 千恵子母の市松人形をお下がりとして千恵子がもらう。千恵子「わーい一生大事にする!」初子&姿子姉妹「いいなあ〜」
  • 初子が事故死。責任を感じた千恵子母は「副葬品」として人形を初子の家にあげてしまう。千恵子「私の物なのにどうして!?」
  • しかし初子家、後で換金でもする気だったのか人形を棺に入れて焼かず、箪笥に隠してしまう。
  • 副葬品としてもらえるはずだった人形がもらえなかった初子の霊が千恵子を殺してしまう。ここで千恵子の物欲も怨念化。
  • 数年後、育った姿子が人形を発見。姿子「可愛い!誰からもらったんだっけ?まいっか!」
  • 人形が姿子親を殺す。孤児となった姿子は人形のことを忘れ大人になる。
  • 時は経ち、姿子の娘・陽子が人形を発見。人形は陽子の死体を求めて動き始める。

「少女たちの、人形に対する物欲」と「少女と一緒に焼かれるはずだったさだめの人形」が絡み合い、悲劇が生まれる。恐らく戦後まもなくの貧しい日本で、初子ちゃんの祖母はせっかくもらった立派な人形を焼いてしまうのが惜しくなったか。
素敵なお人形を母からもらったのに、すぐに友達の副葬品として取り上げられた千恵子(初子に呼ばれて死亡)、副葬品としてもらえるはずだったのに一緒に焼いてもらえなかった初子(死亡)、初子の妹でやはり人形を欲しがっていた姿子(生存)。美しい人形に魅せられた三人の少女。ほら、昔って今みたいに市松人形にホラーのイメージついてなかったから。リカちゃん感覚だから。
数十年後、大人になった姿子の娘・陽子が人形を見つけ出した時、「与えられるはずだった物を与えられなかった」子供の怨念がこもった人形が動き出す!

子供がいる! どうして!?

…最初の方では普通の可愛い女の子だった初子ちゃんと千恵子ちゃんが死後、「恐ろしい怨霊」として人々を恐怖させる存在になってしまっているのが悲しい。人形も、最初のシーンでは子供たちに囲まれて嬉しそうだったのにすっかり「恐ろしい呪いの人形」になってしまった…。

姿子さんは妙に強運なキャラ。現実主義で人形に殺されずに済んだり人形のことをすぐに忘れたりするので見てて安心します。一方何の関係もないのに人形に追いかけ回される陽子はかわいそう。
陽子から頼りにされる同級生のイケメン霊能力者・武内陽(みなみ)くんという存在も恐怖を和らげてくれます。こういう解決担当の人が出てくると多少怖くなくなる。しかしこの美少年、ヒロインよりも描き込みが丁寧です。この漫画の一番の見どころはクールでイケメンな陽くんが雨の日はナチュラルにズボンをロールアップしてる姿です。

「なんの理由かはわからないが、あの人形は死者とともに葬られなかった。
そのままきみの家に残っている。二人の女の子の執着を背負ったまま」

そして陽くんのアドバイスで人形を焼いて供養したんですよ。そしたら「焼けただれた人形」になって普通に襲ってくるんですよ。
「少女の副葬品」なので少女の死体と一緒に焼くのが正解でしたー。陽くん結構うっかりさんだね!
陽子も言ってたけど、人形に取り憑いてる初子ちゃんは血の上では陽子の伯母さんなのに襲ってくる。子供の霊だから仕方ないけど、「身内の絆」は「死んだ子供の物欲」に完全に負けています。初子の両親なんて初子に殺されてるし。かなしい。

ラストは私の好きな「まだ恐怖は終わってない!」タイプの終わり方。犠牲になった後で陽くんに「あの子チャラそうだったけどちゃんと処女(少女)だったかな?」とか心配されてしまう倉敷さんがかわいそう。

とにかく人形が怖くなってしまう漫画なので、読み終えたあとは『振袖いちま』とか『草迷宮・草空間』とかを読んで市松人形への恐怖心を緩和したくなります。(どっちも「生きてる市松人形もの」だけど、可愛いなごみ系ストーリー)

収録コミックス

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