パパは僕が苦しい時だけやって来る。「コスモス」1987年
あらすじ
小学生の裕太は喘息持ち。発作が起こるとママはいつも心配そうに裕太を看病してくれる。
優しいママがパパの会社に電話をかけると、パパが帰ってきて車で病院に連れて行ってくれるのだった。
個人的に山岸サイコホラーの最高傑作。
わたくし、この話を最初に読んだ時まだ小学生だったので、幼すぎて意味がよくわかりませんでした。なので母に聞きました。
私「ねえお母さん、この話ってどういうこと??」
母「……このママはね、裕太くんが喘息を起こせばいいって思ってるんだよ」
私「……う、うわあああー!!((((;゚Д゚))))」
「嫌ねえこの風。裕太ちゃん、胸大丈夫?」
ママが不安そうにこっちを見てる。
風の音とママの顔とで僕はドキドキしてそして…
裕太は発作を起こす。
「裕太ちゃん、しっかりね。今パパに来てもらうからね。
あなた! 早く戻ってきてください。裕太が大変なんです」
僕は苦しい時しかパパに会った事がないみたい。
裕太が喘息を起こすと、普段は顔を合わさないパパをママが呼んでくれる。
ある日裕太はクラスメイトに「喘息って気のせいだからその気になれば治るらしいよ」と言われるが、「気のせいなもんか! こんなに苦しいのに」と腹を立てる。
「気のせい」というのはかなり極端な発言ですが(『甕のぞきの色』でもあったけど、ただほっといたら死ぬよ)、ここでは伏線。
また、ある冬の日。
「もうすぐお正月ね。ママ…心配だわ。
だってお正月は病院がどこもお休みになるのよ。
そんな時に裕太ちゃんの胸がまた…」
ママの目が怖い。裕太は一生懸命不安を押し殺しますが、また発作を起こしてしまいます。ママはまたパパの会社に電話します。ゆ、裕太くんの楽しいお正月が!
「M物産でしょうか。お忙しいところおそれいりますが…。
なぜですの少しくらいのお時間がどうしてとれませんの。年末だからといってる場合ではないでしょう。裕太が苦しんでるんですよ。わたし一人じゃあの子を病院にだってつれてゆけませんわ」
こんな粘着質な奥さん、私でも家に帰りたくない。
裕太視点で話が進むので、大人の会話がちょっとしか出てこないですが、どうやらパパは不倫(山岸作品あるある)か何かをしてて家にほとんど帰って来ないようです。
クリスマスにパパの口に合う(大人向けの香辛料がいっぱい入った)七面鳥を作って裕太くんにまずいと言われるシーンは印象的。『鬼来迎』の奥様みたいに、夫>子供なタイプですってことかな。
そして終盤、ママがまたいつもの一言を…。
「どうしようママ心配だわ。そろそろまた裕太ちゃんの胸の風が…」
この1ページ使ったシーンのママの白目が怖すぎる!
「そろそろ」じゃないよ、あんたもう「そろそろ夫に会いたいわ」くらいのノリで言ってるだろ!
裕太は自分の胸の音に耳をかたむける…。どんどん苦しくなってくる…。
「ほらごらんなさい。やっぱり苦しいんでしょ。
ママの思ったとおりだわ。季節の変わり目がいけないのよ。静かに横になってなさいね。
ひどくなったらパパに来てもらいましょうね。
裕太ちゃんが可愛いパパはすぐとんでくるわ」
こんなママを「優しいママ」と信じて疑わない裕太が本当にかわいそう。呼吸ができないほど苦しんでるのに。発作が起きる時、毎回ママが仕向けてることに気づいて!
でもこのママも多分、自覚はない、はず。…と思うけど、親兄弟の前で言ってた「わたし負けないから」の台詞があるのでちょっと悩む。こんなの自覚あってやってたら魔女だよ…?
「あなた! ご自分の息子じゃありませんか。
あの子が苦しんでいるというのに! あなたはそれでも人の子の親なの」
パパは僕が苦しい時だけやって来る。
他の方の感想で「ママが裕太くんに毒を盛ってるということ?」という感想を見たことがありますが、違います。ママの(恐らく無意識の)呪詛によって発作を起こしてるから怖いんです。
ほんと山岸サイコホラーの中で一番怖い。夫限定の代理ミュンヒハウゼンとでも言うのかな。
どうでもいいですが、私の持ってるあすかコミックス版では裕太くんがクリスマスプレゼントの「ファミコン」をずっと「パソコン」と言ってるのが地味に気になってました(確か後の文庫版では直ってた)。ファミコン…だよね…?