それは、彼女にだけ見える友達。「ティンカー・ベル」1973年
あらすじ
ダフニーのたった一人の友達は、小さい頃から側にいたティンカー・ベルだけだった。
ダフニーが悲しい時、ティンカー・ベルだけがいつも彼女を慰めてくれていたが、ある日出会ったギーと親しくなるにつれて、ティンカー・ベルは彼女の目に見えなくなっていく。
めっちゃええ話やんけ。
15歳のダフニーは小さい頃から美しい母・姉妹と比べられては「あの子だけかわいくない」と言われて育ち、妖精のティンカー・ベル以外に心を開かなくなってしまった。
『ピーターパン』に出てくるティンカー・ベルとは違って等身大なティンクが新鮮です。
ある日、落第しそうな同級生(別に友達ではない。薄情者)の家にノートを貸しに行った際、ダフニーは同級生の兄・ギーと出会う。ギーは男の子のような格好でブスッとしたダフニーがなぜか気になり、ダフニーもギーの優しさに少しずつ心を開き始めます。
普段は何に対しても「フン!」というような顔をしているダフニーですが、容姿コンプレックスが激しいので、偶然ギーと母が出会った時、ギーが「きみのお母さんだなんて信じられないよ」と言ったところ、泣いてしまいます。でもギーは本気で「若くてまるでお姉さんみたい」と言いたかっただけで、それに比べて君はブスだなとか全然思ってないんですよ。めっちゃいい奴だな!
「うふっ。ば、ばかみたいでしょ。こんなことで泣いたりして。
自分でもくやしいけどあのこといわれると涙でちゃうんダ」
「きみ…っていいと思うけど。その…ちょっとかわったカンジで…かわいいよ。
てなこというのぼかあ苦手!
わ、話題かえよう、ン! ティンクってだれさ?」
ギーまじでいい奴。このギー兄ちゃんは「救済役」ですが、優しいハンサムタイプというよりは、がさつでドジな性格の3枚目です。
他の山岸作品の救済ものだと救済役が誰からも好かれるまともなイケメンであることが多いので、「こんな出来の良い男がこんなコンプレックスまみれのめんどくさい女を好きになるかなぁ??」と疑問に思ってしまうことがありましたが、ギーは無駄にイケメンだけどその辺にいそうな兄ちゃんなので、「ああ、ちょっと好みが変わってる奴なんだな」と思えて、それがこの話にリアリティをもたせてるのかも知れないです。だからこのギーのキャラには価値がある。
※山岸先生も後年は「イケメンな救済役の存在」に疑問を持ったのか、だんだん出てこなくなった気がする…。
「彼女に会うと、いやなことはみんな忘れるわ。
小さな時からずっと彼女だけが友達だったの」
「よ、よすわ。あなた信じてなんかいないもの、こんな話」
「そんなことないよ。いまティンクはほんとうにいるんだと考えていたところさ」
「いるんだよ。きみにだけ」
「あたしにだけ!?」
「そう…きみには必要だった。だれかが。きみをすこしもかなしませないだれかが。
だけどこれからは、そのだれかとはティンカー・ベルじゃだめなんだ」
これからはティンクじゃなくて俺だぜ!ってことです。このシーンでは70年代の壁ドンが見られます。
最後は火事の中に取り残されたギーをティンカー・ベルが助けてハッピーエンド。ティンクは本当にいたんだ!
「たしかにティンカー・ベルはいたよ。ダフニー」
「まあいいのよギー。話を合わせてくれなくても。
あなたにいわれてよくわかったの、あたし。
あれはやっぱり、あたしの心がつくったものなんだわってね」
「ダフニー、きみにはもうティンクの姿が見えないんだね」
今、ダフニーの周りに吹き抜けるのはティンカー・ベルの金粉ではなく青春の清風…。めっちゃええ話やんけ。
収録コミックス
- ティンカー・ベル(サンコミックス)(朝日ソノラマ)
- 山岸凉子作品集〈8〉傑作集2 ティンカー・ベル(白泉社)
- 山岸凉子全集〈26〉天人唐草(あすかコミックス・スペシャル)(角川書店)
- 山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月(潮出版社)