天使って本当にいるのかな。「愛天使(セラピム)」1977年
あらすじ
大学へ通うため(という名目で)、母を捨てた父の新しい家庭に住み込むことにした水穂。
水穂はその家の庭で、何故か離れに一人住む優樹という少年と出会う。
守りたい、この笑顔。
母から父を奪った憎い女と父の家庭に乗り込み、波風でも立ててやろうと思っていた水穂だが、元々バラバラの家族だったため虚しくなってしまう。少女ヒロインにしてはガッツのある主人公ですね。
そんなある日水穂は、離れに隔離されている長男・優樹と出会う。6歳の時から心を閉ざし、ものを見ようとも聞こうともしないがために天使のように邪気のない魂を持つ優樹。ひょんなことから優樹と会話ができるようになった水穂は、優樹の目に日常的に「天使」が見えていることに驚く。
「なにに手をふってるの?」
「天使だよ。ほらあの窓の中に」
優樹の天使みたいな笑顔がカワイイ。一方、奥様は自分には心を開かずに水穂に抱きつく優樹を覗き見て悲しみいっぱい。
「お医者さまがね、こういうの。
母親の愛がたりない! 母親の不安定な精神が子供に反映するのだ! ……と。
あたしは優樹も広樹も緑もわけへだてなく愛したつもりよ。
下の方はふつうに育ったわ。なぜあの子だけが!
どうやったら……どうして愛してやったらいいのかわからなくなって……
それであの子のことは忘れたいと思うようになったのよ」
この奥様をただの悪役で終わらせず、心を閉ざした子を持つ母の苦しみをちゃんと描いているあたり、さすが山岸先生です。
自閉症の描かれ方は、「あー昔の自閉症だなー」というかんじ。この作品が描かれた頃、「自閉症」という呼び名は流行って(?)ましたが、実際にどういう感じなのかはあまり知られてなかったので「なんか心を閉ざしてる子供」と誤解した人が多かったようで、昔の漫画ではそのような描写がよくされてます。こういう誤解を招く名称は変えればいいのに。この漫画のように「他人と心を通わせない、でもその分普通の人よりも純粋」みたいな描写もわりとあります。優樹が「こだわりが強く、いつもと違うことがあるとパニクる」系の自閉症として描かれてたらどういうストーリーになってたんだろう…?
収録コミックス
- セイレーン(花とゆめコミックス)(白泉社)
- 山岸凉子作品集〈9〉傑作集3 黒のヘレネー(白泉社)
- 山岸凉子全集〈30〉愛天使(あすかコミックス・スペシャル)(角川書店)
- 山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月(潮出版社)