不倫する女、不倫される女。「月氷修羅」1992年
あらすじ
朗子(さえこ)は正治と不倫を続けて4年になる。
妻と別れられない正治、彼と別れられない自分。お互いのエゴに気づきながらも不倫の泥沼から逃れられない朗子。しかしさまざまな出来事を経て、朗子はひとつの決断を下す。
山岸先生は不倫がテーマの話ではいつも妙に辛口。
28歳の主人公・朗子が見たり聞いたり考えたりするだけの地味めな話ですが、最後の決断が山岸不倫漫画の主人公の中ではかなりの英断です。
不倫に苦しむ朗子は、姉の夫も不倫していることを知り、またその父にも女がいたことを聞かされる。夫の不倫を聞かなかったことにしたら実際に耳が聞こえなくなったビックリおばあちゃん…。お姉さんはどうして妹が不倫してることに気づいたんだろう?
「ど、どうするの。まさか……離婚なんて」
「わたし浮気する」
「え?」
「…冗談よ。してやりたいけど。でも離婚するなんて安易なこと…絶対しないわ。
妻なんてそう簡単に引き下がらないわよ。それはわかってるでしょうね、朗子」
(姉さん、知ってるのね……)
うーん、お姉さんの「引き下がらない」に具体的な計画はあるのかなぁ。なんかこの人、妹には強いこと言ってても結局夫には何もできなそうな気が…。あ、でもこういう大人しい奥様に限ってキレると恐ろしかったりするから、2ちゃんの鬼女板の不倫スレのようなスッキリする報復を期待しましょう。
姉さんのあの眼…
そうよね、姉さんを苦しめる女はわたしでもあるんだ!
主人公が不倫している、主人公の身内は不倫されている…という構図は『死者の家』と同じですね。『死者の家』終盤の美佐と同じくズルズルと不倫の泥沼にはまっていた朗子ですが、ある日正治の妻が急に亡くなってしまいます。あら急展開。
ようやく晴れて結婚できる状況になった二人。しかし朗子は。
「わたしたち別れましょう」
朗子よく言った! えっ、山岸不倫ものの主人公なのにめっちゃ偉くない!?
正治の手に「ハム」って書いてあっても前言撤回しちゃだめだよ!(←伊藤理佐『おいピータン!』のネタ)
一方、正治という男は朗子の急成長について来れず。
「わからない君の言ってることが」
「そうやって自分だけを愛していけばいい」
こんな奴が奥さんの生きている間に愛人の方を選ぶ決断力があるわけなかったんだ! どうして朗子はこんな男に「一度に二人の女」なんていい思いさせてしまったのか。こういう男は愛人や妻がどんなに苦しんでても所詮「俺ってモテてる」くらいにしか感じないんだ!
癪だから山岸先生には既婚女性の不倫ものも描いて欲しいなー。何の落ち度もない夫がいながら若い間男と不倫する主婦の話をぜひ。そんで間男と夫が何年も苦しむの。
不倫相手の奥さんが亡くなってそのまま何の疑問もなく「後添え」になることを選んだパターンだと『貴船の道』があります。