山岸凉子漫画感想ブログ

山岸凉子先生の漫画作品の感想を書いていきます。普通にネタバレしてますのでご注意ください。

神は人間を黄金で作った。「パニュキス」1976年

あらすじ

本とごっこ遊びが大好きなハリーネリー。兄妹はいつも二人だけの空想の世界に住んでいた。
生まれた時から片時も離れなかった二人だったが、ある日別離の時が訪れて…。


最初兄妹の近親相姦ものかと思った。
そしてハリエットおばさんがパン焼き窯で焼かれると思った。(山岸先生を信じすぎ)

14歳になっても『ピーターパン』のように空を飛べると信じ込んで2階から飛び立とうとしたハリーの事件を機に、ハリーとネリーは別々の学校に入れられてしまいます。
元来の社交性を生かしてそのまま外の世界になじんでいったハリー。ハリーから独立できず、学校にも行けず家に引きこもり一人本ばかり読むネリー。何をするにも一緒だった二人は環境も精神も対照的になっていきます。

久しぶりに家に帰ってきたハリーは友達を二人も連れ、ネリーはハリーが自分だけのものではなくなってしまったと落胆。

ハリー、私のハリーはどこ?
「子供みたいにどうしたの、ネリー」

さらにハリーが結婚すると聞いて涙。
そんな成長しない子供のようなネリーを、ハリーの友人チャールズは「黄金の人」と称します。

「ネリー、あなたは黄金の人なんですね。
ご存じでしょ。神話だけど、神は人間をはじめ黄金でつくったという話をですよ。
だけど人間を成長させるために泥を混ぜて人間を大きくしたんです。
だから大人になればなるほど泥の率は高くなる。
子供の時代だけが純粋に黄金なんです。ぼくなんか相当泥が混じってしまって……。
だけどあなたは今でも黄金だけで泥を持たずにいる。
そういう人をぼくは初めて見るんです」

こんな社会性の低い女をこういうかたちで褒めてくれるチャールズ、めちゃくちゃいい人だな。
この話は外国の、しかもちょっと昔の話だから「ふーん」てかんじで読めますけど、「どんどん社会に出て行く兄と、兄から独立できずに引きこもっている妹」という話は現代日本を舞台にしてたらもっと生々しく暗い話になりそう。『鬼子母神』が近いか。

大人になったネリーは持ち前の空想力で童話を書くのを仕事にできたのですが、どう考えても中期ネリーから後期ネリーへの成長速度がやばい。え、編集さんと打ち合わせとかできるの?
最後はチャールズともいいかんじになってほっと一安心ですが、ネリーの精神の成長過程をもう少し描いて欲しかったです。
ちなみに似たような純粋引きこもりキャラのミス・スックは煎じ薬を雑誌の投稿欄で売った金しか現金収入がなく、接する相手も最後まで子供と犬と植物でした。

「ずっと以前、私を黄金の人だといってくれましたね。
けれど黄金は自分に泥が混じるのをおそれるあまり、
もうひとつの黄金しか愛そうとしなかったのですわ。
自分と同じ黄金…ハリーを通して私は自分を愛していたのです。
泥に混じるまいと相手の黄金を削りとっていたのですわ」

収録コミックス

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