姉さんになり代わりたい。「奈落 タルタロス」1988年
あらすじ
18歳のエブリーヌには2歳上の姉・デルフィーヌがいる。
瓜二つの二人だが、才能ある女優であるデルフィーヌに比べ、エブリーヌは常に「人生の敗者」だった。
何をやっても姉に勝てないエブリーヌは、いつしかデルフィーヌの真似ばかりするようになっていった。やがてエブリーヌも女優を目指すが…。
姉のデルフィーヌは生まれながらの勝者です。
わたしは敗者としてこの世に生を享けました。
山岸作品によくある「姉妹の確執もの」といえば、すぐに出てくるのは
美人な姉（妹）とブスな妹（姉）（常世長鳴鳥・黒のヘレネー・ハトシェプスト）タイプ
優秀な姉と美人だが出来の悪い妹（木花佐久毘売・瑠璃の爪）タイプ
の2種類だと思うんですが、この作品は微妙にどっちにも当てはまらない第3カテゴリ。強いて言うなら『ブルー・ロージス』の黎子・明子姉妹とか『テレプシコーラ』の六花・千花姉妹と同じタイプ。片方だけがひどく劣ってるわけでもないのに、片方ばっかり目立ちすぎて、影に隠れてしまう片方。
エブリーヌ、顔は普通に美人さんなのに…。姉と瓜二つの美人だからこそ、姉のデルフィーヌとの差が悲しい。。
この作品はカトリーヌ・ドヌーヴとその姉がモデルだと言われています（多分イメージの話で関係性ではないと思われ）。
「この子はあたしがこうであったら、という望みをみな持って生まれたんだわ♪」
子供の頃の親の偏愛により、そして成長してからは周囲の扱いの差により、少しずつ歪んでいってしまったエブリーヌ。
多分母親は自分のブルネットの髪と灰色の目がよほどコンプレックスで、自分に似た次女を無意識のうちに冷遇してしまったんじゃないかなー。『イグアナの娘』みたいに。そして「自分の修整版」である金髪碧眼のデルフィーヌには自分の理想を詰め込んだフリフリのドレスを着せる。
母親が死んでからは何もかも姉の真似をして育ってきたエブリーヌは姉と同じく女優になります。わざわざ比較されそうな職業選ぶのやめなよ…！
ですが、一向に仕事がやって来ません。ある日、密かに憧れていた姉のイケメンエージェントと姉が愛し合っていることを知り、エブリーヌの恨みは頂点に…。
あんたなんか、ただあたしより2年前に生まれて
運良く金髪で青い眼だっただけじゃない。
それだけで、どうしてなにもかもあたしから奪えるというの。
途中にあったカメラテストシーンを見る限り、デルフィーヌは「金髪で青い眼だっただけ」じゃないじゃん、エブリーヌよりも女優としての才能があるじゃん…と一瞬思ったんですが、よく考えたらエブリーヌのいう「人生の勝者」ってそういうことなんだと思う。 金髪で青い眼ということと、人生の勝者ということはすべて繋がっていると。
金髪碧眼の美しいデルフィーヌは子供の頃から両親や周りの人から可愛がられ愛され認められてきた。その結果、何に対しても誰に対しても気負いなく、「いわれのない自信」を持って堂々と振る舞える人間（女優）になった。エブリーヌが常に「いわれのない不安と自信のなさ」につきまとわれ、何に対してもオドオドとしか振る舞えないのと同じように…。
クリュタイムネストラさんや黎子さんも言ってたようなことですね、これは。性格は周りの環境によって形成され、自信は愛されないと与えられない。
生まれながらの勝者であるデルフィーヌは、
なんのおそれも気負いもなく、誰に対しても何に対しても
まるで自然が流れるように振るまうことができたのです。
デルフィーヌにあのいわれのない自信があるように、
わたしには敗者としてのいわれのない不安があって
全てをしばりつけるのでした。
特に何が悪いわけでもないのにお姉さんができすぎてるせいで「何となく負け組」になっちゃったエブリーヌがかわいそう。エブリーヌはとっとと姉への執着を断ち切って遠い町にでも引っ越して人生を再スタートすれば普通に幸せになれたかも知れないのに。顔はお姉さんそっくりの美人さんなんだから彼氏もすぐできるって！ 気持ち切り替えてこ！
でもエブリーヌは邪魔な姉を無自覚のまま殺してしまう。デルフィーヌにはこれからも輝かしい未来が待っていたはずなのに、かわいそう。そして髪を金髪に染め「デルフィーヌ」に成り代わる。本人は満足気ですが、エージェントの策略にはまり最終的にはポルノ女優です。山岸先生は容赦ない。
「姉の真似をする妹」というテーマは大島弓子の『草冠の姫
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